記事一覧
- Select Category
相続が始まったときは、まず相続人や遺産の内容を調べましょう。調査の結果、不動産が含まれていることがわかればその他の遺産も含めて遺産分割を行い、所有者を決めます。不動産に関しては相続登記が必要になったりその際登録免許税が発生したり、その他の財産にはない特色がありますので、特に注意が必要です。
当記事では「不動産相続の全体像を掴むこと」をゴールとし、流れや費用について解説をしております。
不動産を相続するときの手続
遺産相続をするとき、相続人同士で協議を行い遺産分割の方法を決めていきます。そのためには物件情報を詳しく調べておく必要がありますし、書類集めも必要になるでしょう。さらに法律上の義務として、所有者が変わったことを登記しなくてはなりません。
事前調査
不動産を相続する場合に限った話ではありませんが、まずはいくつか調査すべき事項があります。
1つは「法定相続人」です。
被相続人の戸籍情報を基に誰が相続人になるのかを明らかにしていきます。法定相続人の人数によって法定相続分が変わることから、不動産の分割方法に影響することもあるのです。また、法定相続人全員で協議をしないと遺産分割を有効に成立させることはできません。
もう1つ調査すべきことは「遺産」です。
被相続人の持っていた権利や義務のすべてを明らかにし、それぞれの価額も調べていきます。もし不動産が唯一の遺産だとすれば、利益を公平に分けるためにも遺産分割に工夫が必要です。一方で不動産の占める割合が小さくなるほど大きな遺産総額があれば、不動産を誰か1人が取得しても利益バランスが大きく崩れることなく、揉め事も避けやすくなります。
遺産分割協議
事前の調査が済めば、法定相続人の全員で遺産分割のやり方について話し合いましょう。
このときの目安は法定相続分です。「子ども同士」や「兄弟姉妹同士」、「父と母」なら均等に分割した値が法定相続分となりますが、配偶者と共同相続するときは以下の割合を頭数で均等に分割した値が法定相続分となります。
配偶者と共同相続するときの法定相続分は・・・
l 子ども :遺産全体の1/2
l 父母 :遺産全体の1/3
l 兄弟姉妹:遺産全体の1/4
その割合に配慮しつつ、不動産の所有者を決めていきます。誰か1人がそのままの形で取得する「現物分割」だと利益に大きな偏りが生じることもあるでしょう。現物分割が難しいときは「代償分割」や「換価分割」、あるいは「共有」という方法もあります。
不動産の分割方法 |
|
現物分割 |
・物件を1人でそのまま取得する方法 ・手続が簡単 ・遺産総額のうち不動産が占める割合が大きいときは、相続人間で受ける利益に偏りが生じやすい |
代償分割 |
・物件を1人でそのまま取得し、その他の相続人に金銭を支払う方法 ・不動産を取得しない相続人と利益の偏りが生じても是正できる ・取得者に金銭の負担がかかる |
換価分割 |
・物件を売却して得た金銭を相続人で分け合う方法 ・均等な遺産分割が実現できる ・売却手続に手間と時間がかかってしまう |
共有 |
・物件を複数人で一緒に所有する方法 ・手続が簡単 ・今後の管理を一緒に行う必要があり、後々トラブルが起こるリスクが高い |
相続登記
不動産を取得した場合、相続登記が必要です。
2024年4月からは相続登記が法律上の義務となっており、これを行わない場合には過料と呼ばれるペナルティを科される危険性があります。
3年以内に登記申請の義務を果たせば良いため急ぐ必要はありませんが、長く放置していると第三者に権利を主張できず大きなトラブルに発展するおそれもあるため要注意です。
不動産相続にかかる費用
不動産相続にかかる費用についても簡単に紹介いたします。
登録免許税
相続登記をするときに「登録免許税」の納付が必要です。
不動産の価額(課税標準額)に一定の税率を乗じることで納付額が算出できるのですが、相続の場面では基本的に税率「0.4%」で計算します。
※遺贈で取得したときは「2.0%」の税率が適用されるが、法定相続人に対する遺贈であれば「0.4%」で計算する。
つまり、価額が2,000万円の物件であれば、次の計算式に基づいて8万円の登録免許税が発生するとわかります。
2,000万円×0.4% = 8万円
相続税
取得した財産の価額に応じて相続税の負担も生まれます。
ただし基礎控除額が「3,000万円+600万円×法定相続人の数」と定められていますので、遺産の総額が基礎控除額以下であれば非課税で取得可能です。
一方、基礎控除額を上回る遺産を取得したときは、その残額や法定相続人の数などに応じた相続税の負担が発生します。
※特例や税額控除によって相続税の負担が発生しないこともある。
例)遺産は不動産のみ(相続税評価額5,000万円)。法定相続人は被相続人の子Aのみとする。
課税遺産総額 = 5,000万円-基礎控除額3,600万円
= 1,400万円
相続税の総額 = 1,400万円×税率15%-控除額50万円
= 160万円
非常にシンプルな例ですが、このように税額を調べることができます。実際には債務控除や小規模宅地等の特例、各種税額控除などが適用できることもありますし、法定相続人の数や分割した割合によっても税額は変わってきますので要注意です。正確に相続税の大きさを調べたいときは税理士に頼むことをおすすめします。
専門家費用
相続手続を進める過程で専門家を利用することもあります。相続登記であれば司法書士に、相続税については税理士に、相続人や親族、その他関係者と揉めたときには弁護士に相談・依頼をして解決を目指します。
相続手続は専門性も高く、一般の方が対応するにはハードルが高いといえます。そのため相続開始後は専門家探しに取り組むことも重要で、依頼には費用がかかることも覚えておきましょう。
金額は依頼をする専門家によって異なりますので、相談をしたときに聞いておき、見積もりも出してもらっておくと良いです。
日本人の平均寿命は徐々に延びていますが、その年まで判断能力を維持できている方ばかりではありません。認知症により1人で判断することが困難になっている方も少なくありません。
「気付けば判断能力が低下していた」というケースも珍しくなく、自覚する前から対策を採ることが重要といえます。そこで任意後見制度の利用を検討してみましょう。当記事でも手続の方法・流れ・費用についてまとめています。
任意後見制度の概要
任意後見制度は「成年後見制度」の1種です。
判断能力が衰えた本人の法律行為をサポートするための仕組みが成年後見制度であり、その制度の利用にあたって“本人が前もって契約締結をして備えるタイプ”が任意後見です。
任意後見とは別に、“本人の判断能力が衰えてしまったため裁判所に申し立てて始めるタイプ”が法定後見です。
任意後見では本人が主導して契約内容(サポート内容)を考えていくことになりますが、他方の法定後見では法律により定められている枠組みを活用することになります。
任意後見を始めるための手続
任意後見を始めるには、支援内容を契約書にまとめなくてはなりません。公証役場で公正証書を作成し、登記をしてもらい、その後家庭裁判所への申し立ても必須です。以下に掲げる手順で手続を進めていきましょう。
任意後見人になってもらう人物の検討
契約に定めた法律行為を本人に代わって行う「任意後見人」との契約が必要です。
※この時点では「任意後見受任者」と呼ばれる。任意後見が始まってから「任意後見人」と呼ばれる。
そこでまずは信頼できる方を見定めて、任意後見人になってもらえないかと依頼をしましょう。以下に掲げる者に該当すると後見人にはなれませんが、基本的に自由な人選が可能です。
l 18歳未満(未成年)の方
l 以前に後見人から解任された経歴がある方
l 破産手続中の方
l 以前に訴訟トラブルになったことがある方
ただし任意後見人には大事な財産の管理などを任せることになりますので、①横領などの心配の有無、②財産管理や法律行為についての知識・経験の有無、の2点は要チェックです。大きな権限を預けることとなりますので、経済力や特別な業務経験など、さまざまな観点から評価を行いましょう。
支援内容の検討
続いて任意後見受任者と任意後見の内容を考えていきます。あくまで契約ですので本人の一存で支援内容を決めることはできません。両者の合意があって初めてその契約は機能します。
そこで相手方の意見も取り入れながら、「身上監護」「財産管理」についてのサポート方法などを具体化していきます。
身上監護 |
生活を維持するための契約行為などの支援。 |
財産管理 |
現金や預貯金の取り扱い方法、土地や建物、株式などの管理方法なども定めていく。売却や賃貸に出すかどうかに関しても検討する。 |
また、任意後見人に対する報酬の有無や金額についても考えておきましょう。何も定めを置かなければ無償ということになりますが、任意後見人による不正の防止やモチベーション維持の観点も含めてよく考えることが大事です。
公正証書の作成と登記
任意後見は、一般的な契約とは異なり、当事者間の合意をもって即座に効力を生じさせることはできません。
少なくとも契約内容を公正証書に残さないといけません。そこで当事者間で定めた契約内容を公証人に伝えて、任意後見契約の公正証書を作成してもらいましょう。手続は公証役場で行いますので、事前にアポを取っておく必要があります。
公正証書の作成が済めば、公証人が登記手続を進めてくれます。後見が開始されると契約相手となる第三者などにも影響が及ぶため、任意後見の存在を登記制度によって公示する必要があるのです。
判断能力が低下すると家庭裁判所に申し立て
実際に判断能力が低下して任意後見を始める必要性が生じたときは、家庭裁判所に「任意後見監督人」の選任を申し立てましょう。
この監督人が選任されないと契約の効力は生じません。
また、監督人とは任意後見の内容をチェックする人物のことです。任意後見人だけに任せて不正行為などが横行してしまうといけませんので、任意後見監督人を介して家庭裁判所が一定の関与をできる仕組みを設けているのです。
契約に基づく任意後見を始める
任意後見監督人が選任されて契約の効力が生じると、任意後見人もその契約内容に従い仕事を始めます。
また、不正を防ぐため、定期的な報告義務が課されています。任意後見監督人に対して財産目録や収支予定表などを提出して、現状を伝えなくてはなりません。また、委任者本人から報告を求められたときにも事務処理の内容を報告しないといけません。
発生する費用の大きさ
任意後見を始めるまでの各種手続には手数料などが発生しますし、任意後見を始めてからも費用負担が発生することがあります。
専門家の利用、契約内容、委任者が持つ財産の大きさなど状況により金額も異なりますが、主な費用は次のように整理できます。
任意後見を始めるまでの主な費用 |
|
公証役場に支払う手数料 |
11,000円 |
法務局へ納める印紙税 |
2,600円 |
法務局へ支払う登記嘱託量 |
1,400円 |
専門家への報酬 (依頼する場合に発生) |
10~30万円ほど ※依頼先や依頼範囲により異なる |
任意後見監督人の申立手数料 |
800円 |
後見登記の手数料 |
1,400円 |
郵便切手代 |
数千円 |
鑑定費用 (鑑定が必要な場合に発生) |
10~20万円ほど |
任意後見を始めてからの主な費用 |
|
任意後見人への報酬 |
契約内容による ※月々数万円程度が多い |
任意後見監督人への報酬 |
家庭裁判所の判断による ※月々1~3万円程度が多い |
子どもが成長する過程では、親からの愛情を感じることが重要と考えられています。しかし親が離婚をしてしまうと、一方の親と会う機会はほとんどなくなってしまいます。離婚をしても親であることに変わりはありませんし、子どもの福祉のために面会交流を実施するケースも多いのですが、この面会交流を行う場合は事前に条件をしっかりと決めておくべきです。
ここで、事前に取り決めておくべき面会交流の条件について紹介していますので、現在離婚を検討している・離婚手続を進めているという方はぜひ参考にしてください。
面会交流のルールを定めておくことの重要性
面会交流について細かくルールを決めておかなくても離婚はできます。子どものいる夫婦が離婚時に絶対決めないといけない事項は子どもの「親権」についてであって、「面会交流のやり方」については必須とされていません。
ただ、具体的なルールを定めておかないと後々トラブルが発生する危険性が高く、裁判所で調停までしないといけなくなるリスクも高まります。
大きなトラブルにまで至らなくても、あいまいなまま面会交流を続けているとちょっとした不満がたまり元配偶者との間で関係性がさらに悪くなることもあります。その雰囲気を子どもも感じ取り、ストレスを感じてしまうことも考えられます。
そのため、極力離婚時に面会交流についてもしっかりと話し合っておくことが望ましいのです。
面会交流に関して取り決めておくべき条件
面会交流に関しては、少なくとも①頻度、②方法、③場所については話し合っておくべきです。これらの条件、その他費用などの条件についても以下で確認していきましょう。
頻度
次の事柄についてよく話し合っておく必要があります。
l 月に何回面会するのか
l 夏休みや年末年始、ゴールデンウィークなどの長期休暇中の面会はどうするのか
l 誕生日やクリスマスなどの特別な日の面会はどうするのか
これら「面会交流の頻度」に関する取り決めはとても重要です。子どもに会いたい非監護親としてはできるだけ高頻度で実施したいものですが、その場合は親権を持つ親側に負担がかかります。
特定の日時に子どもを連れていかないといけない手間がかかりますし、元配偶者に会わないといけないことに対して精神的な負担を感じることもあるでしょう。
そこで面会交流の頻度を決めるときは、親の仕事のスケジュールや互いの住居の距離、離婚原因なども考慮しましょう。仕事が忙しかったり遠方に住んでいたりすると頻繁な面会は現実的ではなくなります。
また、離婚原因によっては元配偶者や子どもに大きな負荷をかけてしまうおそれがあります。特に子どもに負担がかかってしまうときは面会交流の頻度を少なくするだけではなく、面会交流を実施しない方向で話を進める必要があるでしょう。
例えば過去に虐待をしていた事実があるのなら、面会交流を実施すべきとはいえません。そもそも面会交流は親のためではなく子どものために実施するものですので、子どもにとって利益にならないどころか不利益をもたらす面会交流を実施する必要はありません。
方法
「面会交流の実施方法」もあらかじめ決めておくべきです。例えば次のような方法が挙げられます。
l 直接面会対面して交流する
l ビデオ通話や電話などで交流する
l 非監護親と子どもだけで面会する
l 監護親も一緒に立ち会う
l 第三者も立ち会って面会する など
必ずしも1つの手段に絞る必要はありません。原則的な方法については決めておき、その方法による面会交流ができない場合の備えとしてオンラインでの交流なども視野に入れておくと良いかもしれません。
また、遠方に住んでいて何度も会いに行くのが難しい場合は、直接会う日とオンラインで交流する日を織り交ぜてみるのも良いかもしれません。決まった方法はありませんので、双方の都合、子どもの意見なども参考にしつつ、面会交流の方法を考えていくと良いでしょう。
なお、親子仲がとても良いとはいえない場合や子どもが会いたがらない場合には第三者を立ち会わせることも検討しましょう。
場所
「面会交流の実施場所」も決めておきましょう。例えば次のような場所を指定します。
l 公園
l ショッピングモール
l 監護親の自宅
l 非監護親の自宅 など
非監護親との関係性によっても定めるべき場所が変わってきます。例えば離婚に対して最後まで否定的であった相手方、親権について最後まで争った相手方である場合、連れ去りなどのリスクも考慮すべきです。子どもの安全を第一に考え、そのうえで親の都合よりも子どもにとって過ごしやすい場所を選ぶようにします。
また、子どもの趣味や性格、年齢なども考慮します。幼児であれば公園などの遊具がある場所で楽しく過ごせますが、外遊びが好きな子でなければ楽しく過ごせないかもしれませんし、ある程度年齢を重ねてくると公園よりショッピングモールや映画館、カフェなどの方が楽しく過ごせるようになってきます。
そこで親双方の意向に加え、子どもの意見も参考にしながら場所を決めていくと良いでしょう。
費用
「面会交流を実施するための費用」も争いが生まれることがありますので、事前によく話し合って取り決めておくことが大事です。例えば次のような費用です。
l 交通費
l 宿泊費
l 子どもの食費 など
なお、これら面会交流に伴う費用は基本的に非監護親が負担すべきものと考えられています。それぞれが支出したものに関しては支出した者が負担をするのが基本であり、必ずしも折半とする必要はありません。
ただしこれもケースバイケースです。子どもが非監護親に会いたがっていて面会交流を実施するのが子どもの福祉のためになるという前提が成り立つとき、非監護親に遠方へ来るだけの経済力がないのなら一部費用負担が認められる余地もあります。
とはいえ、いずれにしろまずは双方の合意に基づいて条件を決めていきますので、双方が納得すれば費用の負担についても自由に定めることは可能です。
その他考えておきたいポイント
その他にも、はじめに考えておきたい条件がいくつかあります。
例えば「子どもの受け渡しの方法」です。子どもがどうやって非監護親のもとに向かうのかを決めます。監護親が送っていくのか、子ども自身が向かうのか、第三者に送ってもらうのか、など細かいポイントですがしっかりと取り決めておきましょう。
「子どもの体調が悪い場合の対応」についても話し合います。体調が悪い中無理に会うのは避け、そのうえで面会交流の日程を振り替えるのかどうかを決めておくのです。
また、次の事項についても一度考えておきましょう。
l 連絡手段(親同士の連絡手段ほか、非監護親と子どもの連絡を認めるのかどうかについても話し合う)
l プレゼントを渡す行為(プレゼントのやり取りがきっかけで揉めることもあるため話し合っておく)
l ルール違反があったときの対応(面会交流を実施しないなど、ペナルティについても決めておく)
条件を決めるときの注意点
面会交流の条件を決めるときは、相手方の条件をそのまま受け入れるのではなく相場と比べたときの妥当性を評価すべきです。深く考えず同意してしまうことのないように注意しましょう。
また、定めた条件は書面に記しておくようにも注意します。「そんな条件は認めていない」などと後で主張されることを防ぐためです。
「上手く対応できるだろうか」と悩むこともあるかもしれませんが、そんなときは弁護士を頼ると良いです。話し合いをするときに揉めるのを回避しやすくなりますし、不利な条件を交わしてしまうリスクも下げられます。
今後条件変更等を申し入れたくなったときも弁護士を介して相手方と交渉をすることができます。その他さまざまな問題に対し、弁護士がついていると安心して取り組むことができますので、すこしでも有利な条件を求めるのであれば離婚問題・家族問題について取り扱い実績がある弁護士への依頼を検討してみてはいかがでしょうか。
判断能力が低下・喪失してしまうと単独で適切に法律行為をすることができなくなってしまい、生きるために必要なサービスを受けるときや資産の管理をするときに困ってしまいます。
そんな場面でも「後見人」が付いていればサポートをしてもらえます。後見人は成年後見制度に基づいて選任される人物で、利用パターンによって選任される後見人の種類は異なります。
ここで成年後見制度の種類と後見人の種類について解説しますので、認知症に対する不安を抱いている方や判断力に問題が出始めたという方は参考にしてください。
成年後見人
本人が判断能力を失っており、すでに単独で法律行為をすることが困難であるという場合、「後見の開始」を求めて家庭裁判所に申し立てを行います。
そしてこのとき裁判所から選任されるのが「成年後見人」です。
成年後見人は、保護対象となる成年被後見人についての広範な代理権を持つのが一番の特徴です。日用品の購入といった利害が小さい行為を除きすべての法律行為を代行することができ、他の後見人と比べてもできることの幅が広いです。
ただしその分責任も大きくなり、求められる知識・技量の水準も高くなります。また定期的に裁判所に事務報告をしなければならず、裁判所による監視も受け続けることとなります。
保佐人
本人の判断能力が、法的に“著しく不十分である”と評価されるときは、「保佐の開始」を求めて家庭裁判所に申し立てを行います。
そしてこのとき裁判所から選任されるのが「保佐人」です。
保佐人は、保護対象となる被保佐人のする一定の法律行為について同意権を持ちます。同意権とは、本人のする法律行為に対して了承をする権限のことです。そこで保佐人の同意が必要な行為に関して同意を得ずにしても、後で保佐人は本人のした行為を取り消すことができるのです。
なお、同意権の対象となる法律行為とは「預金の引き出し」「お金の貸し付け」「贈与契約」「自宅の購入」など、民法第13条第1項に定められた行為のことです。
※その他の行為に関して別途代理権付与の申し立てを行い、代理権を得ることも可能。
補助人
本人の判断能力が、法的に“不十分である”と評価されるときは、「補助の開始」を求めて家庭裁判所に申し立てを行います。
そしてこのとき裁判所から選任されるのが「補助人」です。
補助人は、保護対象となる被補助人のする行為について一部同意権や代理権を付けてもらうことで法律行為のサポートを行います。被補助人は成年被後見人や被保佐人とは異なり、ほとんどの行為を1人で問題なく行うことができます。そのため申し立てをした特定の行為に限って行為能力が制限され、補助開始の申し立てに関しても本人の同意が必要とされています。
任意後見人
上記3つの後見人は、法定後見と呼ばれる枠組みに入る後見人です。この法定後見とは性質が異なる「任意後見」と呼ばれる枠組みもあります。
任意後見はその名称の通り任意に開始できるものであって、後見開始や保佐開始のように本人の意思を考慮することなく始めることはできません。補助開始の申し立ても本人の同意は必要ですが、その他の人物が申し立てをすることは可能です。
一方で任意後見は本人と後見人になろうとする者が契約を交わす必要があり、本人による自主的・積極的な取り組みが求められます。
当事者間で取り交わす任意後見契約に従い、任意後見人のする仕事内容は定まります。法定後見のように法律でサポート内容が決められておらず、本人がして欲しいことをピンポイントで依頼することができるのです。
後見人の比較
成年後見制度とそれぞれで選任される後見人の種類は次のように整理できます。
l 法定後見
Ø 後見の場合・・・「成年後見人」が選任される
Ø 保佐の場合・・・「保佐人」が選任される
Ø 補助の場合・・・「補助人」が選任される
l 任意後見
Ø 契約に基づいて「任意後見人」を指定する
法定後見については上から順に後見人の権限が大きく、その分求められる仕事量や責任も大きくなります。とはいえ他の後見人の責任が軽いということでもありません。法律行為の意味を理解し、適切な判断を下し、本人の権利利益を保護しなくてはなりません。
必ずしも家族を指定する必要はありませんし、できるだけ法律上の知識や財産管理、資産運用についての知識が豊富である人物を選任してもらうことが重要といえます。適任といえる方が身近にいないときは弁護士などの実務家に対応を依頼することも検討しましょう。
相続人となる方には3つの選択肢があります。1つ目はそのまま相続を受け入れるという選択肢です。2つ目は清算手続を行い限定的に相続する選択肢。そして3つ目が一切相続をしないという選択肢です。
3つ目の選択肢は「相続放棄」と呼ばれ、多額の借金を残して亡くなった方についての相続でよく採用されています。相続によるリスクを回避するために重要な手続ですので、ここでそのやり方を押さえておきましょう。
「相続放棄」で借金の相続を回避できる
親や配偶者が借金をしていた場合、その債務者本人と近い関係にあるからといって返済義務を負わされることはありません。債権者から「支払え」と求められても応じる必要はなく、拒むことができます。
ただ、債務者が亡くなってその方を相続したときは、資産も負債もすべて承継することになります。借金が残っているときはその返済義務も引き継ぐこととなります。
そこで借金の相続を回避したいときは「相続放棄」を行いましょう。相続放棄をするとどうなるのか、このときの効果は民法に規定されています。
(相続の放棄の効力)
第九百三十九条 相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。
相続放棄をすれば、相続開始時点に遡って「相続人にはならなかった」という扱いを受けます。
そのため「あなたは債務者の相続人だから借金を代わりに返しなさい」と求められても、相続放棄後はこの請求を拒むことができます。
相続放棄をすると資産も相続できなくなる
相続放棄をするときに注意すべきは、「借金の取得だけを回避することはできない」という点です。
選択的に財産の取得を放棄することはできないため、まるごと捨てるか、まるごと相続するかのどちらかしか道はありません。
もし「どうしても取得したい資産がある」という場面で相続放棄をしてしまうと、その資産を手にすることもできなくなってしまいます。そしていったん相続放棄をするとやり直しはききません。
そこで借金の有無だけに着目して相続放棄をすべきではなく、しっかりと遺産の調査を行わなければなりません。資産の割合の方が大きく、全体としてはプラスになるというときは相続放棄を無理にする必要はありません。
プラスになるかマイナスになるか、明確に判別できないというときは「限定承認」の手続も検討すると良いでしょう。
※限定承認とは、承継したプラスの財産の範囲でのみマイナスの財産の弁済義務を負うという手続。
相続放棄の方法
相続放棄をしようとするときは、上述の通り、まずは遺産の調査を行うべきです。
借金の存在やその大きさについて調べるのであれば、被相続人の自宅や口座の引き落とし履歴をチェックしてみましょう。借金に関する契約書が見つかることもあれば、毎月借金の返済として引き落とされている記録が見つかることもあります。
全銀協(一般社団法人全国銀行協会)やJICC、CICなどに問い合わせて調べられることもあります。
その他の財産についても調べて、相続放棄をすることを決意すれば、必要書類を集めて家庭裁判所で手続を進めていきます。
必要書類の準備
相続放棄をするには「相続放棄の申述書」を作成しないといけません。窓口で受け取るかWebからダウンロードして、必要事項を記入していきましょう。
被相続人の「住民票除票(もしくは戸籍附票)」も取得しておく必要があります。
また、相続放棄の申述人が相続人であることの証明も必要です。この手続に限らず、相続人であることを示すときは戸籍謄本等(戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍のこと)を利用しますので、被相続人から見た関係性(相続人としての順位)に対応した戸籍謄本等を用意しておきましょう。
少なくとも「被相続人の死亡から出生までの戸籍謄本等」は必要で、追加で次の戸籍謄本等が必要になることもあります。
l 子どもを代襲相続した孫
Ø 被代襲者についての死亡が記載された戸籍謄本等
l 親や祖父母
Ø 子どもが死亡しているときは、死亡した方の死亡から出生までの戸籍謄本等
Ø 祖父母の場合、被相続人の親が死亡したことについて記載された戸籍謄本等
l 兄弟姉妹
Ø 子どもや親が死亡しているときは、死亡した方の死亡から出生までの戸籍謄本等
Ø 代襲相続をした甥や姪の場合は、被代襲者の死亡が記載された戸籍謄本等
3ヶ月以内に家庭裁判所へ申立
申立書や添付書類の用意ができれば、家庭裁判所にこれらを提出して、相続放棄の申述を行います。
※手続を行う家庭裁判所は、亡くなった方の住所地が管轄である家庭裁判所。
家庭裁判所に提出するだけではまだ相続放棄は完了していません。その後裁判所から照会書が送られてきますので、そこへ必要な事項を記載し、返送。さらにその後相続放棄が受理されたことを示す「相続放棄申述受理通知書」が送られてきます。これをもって手続は完了となるのです。
なお、申述が認められる期限は「相続が始まった事実を認識したときから3ヶ月以内」です。期限に間に合わせられないと、多額の借金があってもそのまま取得しないといけなくなりますので要注意です。
※期限を過ぎる前に期間伸長を求める手続をしておけば、3ヶ月を経過しても相続放棄をできるケースがある。
債権者に対する通知
以上の手続を済ませることで借金を含む一切の相続財産を取得することはなくなり、債権者からの請求も無視できるようになります。
しかし余計なトラブル、揉め事を起こさないように、可能なら債権者に対して相続放棄をしたことについて通知することも検討しましょう。請求に対する返答として、相続放棄申述受理通知書や相続放棄申述受理証明書を提示して「相続放棄をしました」と伝えると良いです。
判断力が鈍ると、浪費をしてしまったり重要な財産を処分してしまったりして自分自身の財産を守ることが難しくなってしまいます。そこで判断能力が不十分になった方向けに成年後見制度が用意されています。
ここで基本的な手続の種類と流れ、そして制度を利用するときに発生する費用の大きさについても解説していきますので、今後成年後見制度の利用を考えている方は参考にしていただければと思います。
成年後見を始めるための準備
まずは成年後見制度が何なのかを理解しておく必要があるでしょう。
制度の利用で何が解決できるのか、ご自身の置かれている状況において利用が適しているのか、どうやって利用を開始できるのか、費用はどれほどかかるのか、様々な疑問点があるかと思われます。
成年後見制度は、判断能力が不十分になった本人を法的に保護することができる反面、その本人の権限を制限する効果も生じます。将来に渡って継続的に利用する手続ですし、慎重な判断が求められます。
できれば法律に強い専門家の力も借りて不明点を解消していくべきです。法的な問題について広く対処できる弁護士から、登記に強い司法書士など、いくつか選択肢はあります。その中でも成年後見制度を支援した実績のあるプロを探し出すようにしましょう。
専門家への相談費用
専門家に質問をするとき、通常は相談費用がかかります。料金体系は法律事務所や司法書士事務所など、依頼先によって異なりますが、「30分あたり5,000円」「1時間あたり1万円」などと時間制で定めている例が多いです。
また、「初回相談無料」としていることもありますし、相談だけでなくその後の手続も依頼することが決まっていれば、相談については別途費用が不要になることもあります。
任意後見制度を利用するケース
制度について調べていくと「任意後見」と「法定後見」があることに気が付くでしょう。簡単に区別すると、事前の備えとして利用できるのが任意後見、事後対応として利用できるのが法定後見と説明できます。現状、判断能力に問題がないのであれば、任意後見の準備を進めておくことをおすすめします。
手続の流れ
任意後見では、財産管理や身上監護をしてほしいと考える本人と、その事務に対応する任意後見受任者が契約を締結する必要があります。そのため、その時点において本人に任意後見契約を締結するだけの判断能力は残っていないと利用はできません。
また、契約当事者となる相手方、任意後見受任者も探さなくてはなりません。次の点に着目して人を選びましょう。
l 法律上の欠格事由にあてはまらないこと
例)未成年者、破産者、本人と訴訟トラブルを起こした者など
l 利害関係の対立がないこと
例)介護・看護のサービスについて契約を交わした事業者など
l 経済力があり面倒見も良いこと
候補者が選定できれば契約内容を検討します。何をしてほしいのかよく考え、契約書を作成していきます。また、任意後見を始めるには契約書を公正証書として作らなければなりません。そこで、公証役場で作成手続を進める必要があります。
その後後見を始めるべきタイミングになれば、家庭裁判所に対して「任意後見監督人の選任」の申立てを行います。任意後見人とは別に任意後見監督人が必要ですので、この申立てを受けて監督人が選任されれば、そこからようやく後見が開始となります。
公正証書の作成と裁判所への申立て費用が必要
契約書の作成をするとき、費用が必要です。「公正証書作成手数料11,000円」が必ず必要となります。また、「収入印紙2,600円」や「登記手数料1,400円」も必要です。
また、任意後見監督人の選任について申立てをするときに「申立手数料800円」「登記手数料1,400円」も発生します。裁判所の求めに応じて「鑑定費用」が発生することもあります。鑑定が必要になる場合は数万円~10万円ほど負担が増えてしまいます。
これらに加え、申立てのときに提出する書類を発行するのにも費用がかかります。数百円程度で足りるものが多いものの、多数集めることになれば数千円~1万円以上が必要になる場合もあります。
任意後見人と任意後見監督人への報酬を支払う
成年後見制度を利用するときの費用を考えるとき、「後見人等に対する報酬」について忘れてはいけません。申立て等の手続で支払う費用は最初だけですので大きな問題ではありませんが、報酬が発生するときはその後後見対象となる方が亡くなるまで続きます。
※法律上、報酬の支払いが必須ということではない。後見人等の同意があれば無償にもできる。
その費用についても予算に組み入れて、計画的に制度の利用をする必要があるでしょう。
任意後見人については「ひと月当たり2,3万円」程度になることが多いです。ただし、任意後見契約で取り決めた事務内容の範囲が広いほど、事務の難易度が高いほど、月々の報酬額も大きく設定されます。毎月5万円、それ以上になることもあります。
また、任意後見においては任意後見監督人が必ず選任されますので、この監督人に対しても報酬が発生します。とはいえほとんどの仕事は任意後見人が実施し、監督人はそのチェックをするのが役割ですので、報酬額は任意後見人より安くなる傾向にあります。そこで「ひと月当たり1万円」程度になることも多いです。
法定後見制度を利用するケース
契約を有効に交わすことができないときは、法定後見の開始に向けて手続を進めましょう。法定後見の場合は支援対象になる本人のご家族などが申立てすることが可能です。ただし次のように法定後見には種類があり、それぞれ後見の内容と申立ての条件が異なりますので注意が必要です。
成年後見 |
|
保佐 |
・本人の判断能力が著しく不十分 |
補助 |
・本人の判断能力が不十分 |
手続の流れ
制度を利用するために本人が契約を交わす必要はありません。必要に応じて医師の診てもらい、必要書類を備えて家庭裁判所に提出すれば良いのです。
裁判所がその資料に目を通し、また、本人やそのご家族等と面談をするなどして後見等の開始をすべきかどうかを判断します。
裁判所への申立て費用が必要
契約の締結が不要である以上、任意後見で必要とされていた契約書作成にかかる各種手数料は不要となります。
ただし家庭裁判所への申立ては必要ですので、「申立手数料800円」「登記手数料1,400円」は任意後見のときと同様に発生します。また、鑑定が求められると別途数万円~10万円ほど負担が増えるのも同じです。
※代理権付与、同意権付与をさらに行うときはさらに審判申立手数料800円が必要になる。
成年後見人・保佐人・補助人への報酬を支払う
成年後見人や保佐人、補助人に対しても報酬の支払いが発生します。任意後見人と大差はなく、「ひと月当たり数万円」程度が相場とされています。
報酬額は仕事量の大きさに対応することから、成年後見人>保佐人>補助人の順に報酬額も大きくなると考えられます。ただし、裁判所は本人の経済力等も考慮して金額を決めますので、具体的な金額はケースバイケースであるといえます。
相続人が複数いるときは遺産分割を行います。どのように財産を分けるのか、いくつか遺産分割には方法がありますし、そのときに知っておきたいポイントや注意点もありますので当記事で解説をしていきます。家族間、その他の人物との間で揉め事が起こらないよう、法律上のルールも踏まえて遺産分割に臨みましょう。
遺産分割とは
亡くなった方を「被相続人」、相続財産を承継する方を「相続人」と呼びます。相続人が1人しかいないときは、相続財産をまるまる1人が取得することになりますが、相続人が複数人いるときは共同相続をすることになります。
共同相続となる場合、誰が・どの財産を・どれだけ相続するのかを決めることとなります。これを「遺産分割」と呼びます。
なお、遺産分割の方法は大きく次の3つに分けることができます。
【遺産分割の3つの方法】
・指定分割
遺産分割の方法について、遺言書で指定をされているときの遺産分割方法。取得割合を指定されていることもあれば、特定の財産を指定されていることもある。
・協議分割
遺言による指定がないものに関して、共同相続人の協議(いわゆる「遺産分割協議」のこと。)により定める遺産分割の方法。遺言書が作成されているときでも、指定のない部分については協議分割を行う。共同相続人全員の合意がなければ成立させられない。
・審判分割
遺産分割協議を成立させられないとき、相続人が遺産分割を求めて家庭裁判所に申し立てを行う。この場合の、家庭裁判所による遺産分割の方法が審判分割。なお、家庭裁判所は分割の審判を行う前に調停分割を試みるものとされている。
遺産分割協議について
相続開始後、いきなり遺産分割協議を始めることはできません。まずはいくつかの情報を調査していく必要があります。また、協議を円滑に進める上では法定相続分のことなど法律上のルールについてもある程度理解しておくことが望ましいです。
これら遺産分割協議を進めるにあたり知っておきたいことを以下にまとめていきます。
【事前に調べておくこと】
遺産分割協議に先立って、次の情報は調査しておきましょう。
・遺言書の有無とその内容
・相続財産の内容と価額
・相続人
・法定相続分と過去の贈与など
遺言書で遺産分割の方法について指定がされているときは、協議すべき範囲が狭まります。そもそも協議を行う必要もないかもしれません。そのためまずは遺言書が作られていないか、被相続人の自宅や契約していた貸金庫、公証役場などをチェックしていきます。
また、目的物となる相続財産の内容も当然把握しておかないと話が進められませんし、その話し合いに参加する相続人も全員把握しないといけません。
さらに、相続割合の指標にもなる法定相続分も調べておきましょう。ただ、実際の取得分は法定相続分から増減することもあります。特定の人物だけ大きな資産を受けていた場合などにはその分を考慮しないとバランスが取れないからです。そのため過去の贈与やその他相続分に影響を与え得る行為についても調べていきます。
具体的に何を調べないといけないのか、どうやって調べていくのか、わからないことがあるときでも弁護士に相談すれば解決できます。
【相続人は全員参加で協議を行う】
前項の情報が整理できて下準備が調えば、相続人が全員参加のもと、協議を進めていきます。
必ず、全員で協議を行うようにしましょう。参加すべき人物を1人でも欠いた遺産分割協議は無効となってしまいますので要注意です。そこで次の人物がいるときは協議に参加するよう求めましょう。
遺産分割協議の参加者
・相続人全員
配偶者は常に相続人となる。
配偶者とともに共同相続人となる人物は、子ども(第1順位)、親(第2順位)、兄弟姉妹(第3順位)の順に定まる。
※代襲相続などにより相続人の範囲が広がることもある。
・包括受遺者
相続財産の取得について、遺言書にて、割合で指定を受けた人物。特定の財産ではなく「財産の2割」などと指定されたときは権利も義務も取得することになり、その範囲で相続人と同等に扱われることから、この受遺者についても協議に参加する。
・相続分譲受人
相続人から相続分を譲り受けた人物。
・遺言執行者
遺言内容の実現を職務とする人物。遺言書による指定あるいは裁判所から指定を受けた人物。
後順位の相続人、例えば子どもが相続人になる場合における被相続人の親や兄弟姉妹については協議に参加しません。また、相続を放棄した方や欠格となった方、廃除された方なども参加しません。
※相続欠格:先順位の相続人を殺害したなど、特定の行為によって法的(自動的)に相続権を剥奪されること。
※相続廃除:被相続人に対する虐待などがあり、被相続人が相続させないよう手続を行うことで相続権を剥奪すること。
【各自の相続分を決めるポイント】
遺産分割協議は揉めることも多いです。もし、誰かが一方的に有利になるような割合で取得しようとした場合、その他の相続人から反発を受けることになるでしょう。ただ、何をもって不平等と捉えるのか、その認識を当事者間で共通させておくことが大事です。
必ずしも均等に分け合うのが良いともいえません。民法上も立場に応じた相続分を定めており、被相続人との関係性が近いほど大きな割合が得られるものとしています。例えば配偶者Aと子どもB・Cがいるとき、Aは全財産の1/2、BおよびCはそれぞれ全財産の1/4を取得することになります。配偶者の取得分は子ども倍となりますが、法定相続分を知っていればその結果を不当とは考えません。
しかしながら、具体的な相続分を調べる上では過去に被相続人から受けた財産上の利益や、被相続人のためにした行為なども考慮することが大事です。そこで①特別受益の有無、②寄与分の有無に着目しましょう。
《相続人が特別受益を受けている場合の相続分》
※特別受益:過去、被相続人から婚姻や養子縁組のため、もしくは生計の資本として受けた贈与のこと。
具体的な相続分 = (相続財産の価額+贈与価額)×法定相続分-贈与価額
なお、被相続人の配偶者(婚姻期間が20年以上)が特別受益として居住用建物等を取得していたときは、基本的に上記計算式へその価額を含めません。被相続人が「その贈与分については特別受益として扱わない」と意思表示したものとして法律上推定されるからです。
《相続人に寄与分が認められる場合の相続分》
※寄与者:被相続人の財産形成や維持について特別の寄与をした者のこと。被相続人の事業に関して労務の提供をした、あるいは財産上の給付をした、または被相続人の療養看護、その他特別の寄与をしたときに寄与分を考慮する。
具体的な相続分 = (相続財産の価額―寄与分)×法定相続分+寄与分
【不動産の分割に関するポイント】
現金や預貯金については分割も容易です。しかし不動産の場合は分割が容易ではなく、「現物分割(土地や建物など、物件単位でそのまま分ける方法)」だと相続人各自が受ける恩恵にも差が生じてしまうことがあります。
「共有」の状態とすることで平等に持分を持つこともできますが、管理・処分の面で難があり、将来的にトラブルが起こるリスクが大きくなります。そのため一般的には共有は推奨されません。
「換価分割(不動産の売却から得られた金銭を分割する方法)」や「代償分割(不動産を取得者がその他の相続人に金銭を支払って分割する方法)」などもありますので、適切な分割方法について慎重に判断することが必要でしょう。
他にも、不動産があるときに留意すべきポイントはたくさんあります。上記の、婚姻期間20年以上の夫婦間で自宅の贈与があった場合の法定相続分のこともそうですし、相続税についても無視はできません。
不動産、特に土地があるときは課税価格が大きくなりやすいため、税理士にも相談しつつどう取り扱うべきかを考える必要があるでしょう。
さらに、配偶者が暮らしていくために自宅と生活資金を得る必要があるのなら、近年法定された「配偶者居住権」の行使も検討することが大事です。これは、自宅を取得することで生活資金として使える預貯金等がほとんど取得できなくなる問題を解決するために効果を発揮します。
かつては建物の所有者と賃貸借契約を結ぶ方法で対応されていましたが、所有者に契約締結の義務はないことから配偶者の居住権が確保されないケースもあったのです。そこで配偶者居住権を法律上認め、所有権の取得より低廉な価額で居住権を得られるようにしたのです。住まいと生活資金の両方を確保する必要がある場合は、弁護士に相談して配偶者居住権についても話を進めていくと良いでしょう。
【遺産分割協議書の作成】
協議がまとまれば、その結果を「遺産分割協議書」として書き記します。この文書は、対外的に各々の取得分を証明するため、紛争の蒸し返しを防ぐためにも役立ちます。
書式の指定はありませんので、自由な形式で作成することができます。ただしトラブル防止の観点から、次の事項については必ず含めるようにしましょう。
・被相続人を特定する情報(氏名、亡くなった日、生年月日、本籍地等)
・相続人を特定する情報(氏名、住所)
・相続人全員の署名押印
・相続人各々が取得する財産を特定する情報(不動産であれば所在や地番、地目等)(預貯金であれば銀行名と支店名、口座番号等)
・作成日付
遺産分割協議の注意点
遺産分割協議を行う際、上述の通り相続人全員の合意が必要となります。そのため隠し子の存在などにも留意して相続人の調査は進めていかなければなりません。そして法定相続分を参照する場合、特別受益や寄与分なども調べていくことも大事です。
相続分に関連して、税金の負担にも留意しましょう。多く取得するほど大きな税負担がかかります。同じ相続財産でも、分割方法、特例の利用などによって税負担を小さくできることもありますので、税理士にも相談して分割方法を考えていくのも良いです。
また、遺産分割協議を行う時期にも注意しましょう。協議自体、「〇〇までに行わないといけない」などとルールは定められていません。しかしながら、相続税の申告は相続開始から10月以内に行う必要がありますので、それまでに協議を済ませておかないといけません。
建物や土地などの不動産も遺産相続の対象です。亡くなった方を被相続人とする相続が開始されると、その方が生前持っていた自宅、宅地、賃貸アパート、マンション、空き地などは相続人が取得できます。
ただし相続手続の一部には期限の定めが設けられていますので、一定期間内に適切に手続を済ませることが大事です。当記事でその流れと期限を説明していきますのでぜひ参考にしてください。
不動産相続までの手続と期限
相続人の場合、「特別な手続を行わないと遺産が受け取れない」ということはありません。法律上の規定に従い自動的に取得できます。しかし、相続に関していくつか済ませておかないといけない手続、検討すべき手続があります。それぞれに期限もありますので要注意です。
【相続開始直後にすべきこと】
相続開始後、つまり配偶者や親などのご家族の方が亡くなった後は、「死亡届の提出」をしないといけません。これは「亡くなった日から7日以内」です。亡くなってから数日経ってその事実を知ったのであればその日から7日以内でもかまいません。いずれにしても市町村など役所の窓口で死亡届の提出を行います。
その後は①遺言書、②遺産、③相続人の3点についての調査を進めます。これらの調査は法的な義務ではありませんし、期限もありません。ただし遺産分割や相続放棄などの手続を進めるために必要ですので早いうちに済ませておくことが大事です。
《調査すべき事項》
・遺言書:
遺言書が作成されているかどうか、作成されているときはその内容をチェック。ただし封のされている遺言書を自宅等で見つけたときは、開封するまえに家庭裁判所で検認の手続を行わなければならない。
・遺産:
亡くなった方が持っていた不動産、現金や預貯金、自動車、貴金属、株式などあらゆる財産の内容を調べていく。借金などの債務についても相続対象となるため、リスクの大きさを把握する意味でも必ず調べる。存在が確認できた財産については評価額も査定しておく。
・相続人:
相続の当事者である相続人を、亡くなった方の戸籍謄本から調べる。前配偶者との間に生まれた子ども、隠し子などの存在にも留意して調査を進める。
【遺産相続の検討】
遺産を調査したところ目ぼしい資産がない、それどころか大きな借金を残しており全体としての遺産総額がマイナスになる、といったケースでは遺産相続にリスクが伴います。
そこで相続人個人の財産を守るためにも「相続しないこと」の検討が大切です。
相続しない場合は「相続放棄の申述」の手続を家庭裁判所にて行います。申述が認められると相続人ではなくなり、リスクを免れることができます。
また、財産の種類・数が膨大で相続すべきかどうかの判断が難しいという場合には「限定承認の申述」の手続を家庭裁判所で行います。これにより、取得した遺産の範囲に限って債務の弁済責任を負うこととなります。
例として、1,000万円の資産と1,500万円の負債が含まれる遺産を取得したとしましょう。全体としてはマイナス500万円ですので相続放棄を検討することになりますが、その時点で具体的な金額が把握できないケースもあります。そんなとき、限定承認をしておけば1,000万円分の弁済だけで責任を果たしたことになります。500万円について自己の財産から支払う必要はありません。
しかし、ここで注意しないといけないのが期限です。
相続放棄の申述・限定承認の申述は、「相続開始から3ヶ月以内」に行わなければなりません。この期間を過ぎてしまうと遺産相続をそのまま受け入れたものとしてみなされてしまいます。
【遺産分割協議
遺産相続を受け入れる場合は、遺産分割協議を行います。
※相続人がご自身1人である場合や遺言書で全財産についての分割方法が指定されている場合には不要。
逆に共同相続する相続人がいるときは、その全員で分割方法等を決める必要があります。不動産相続をする場合は、この協議にて不動産を取得したい旨を伝えましょう。相続人全員の意見が一致すれば協議を終わらせることができます。
なお、不動産は1人だけで取得する必要はありません。1人でそのまま取得する方法を「現物分割」と呼び、他にも「共有」や「換価分割」「代償分割」などの不動産相続の方法があります。
・現物分割:不動産をそのまま取得。遺産分割のバランスを取るのが難しい。
・共有 :1つの不動産を複数人で所有する。その後の管理や処分が難しい。
・換価分割:不動産を売却して代金を分割する。売却までに時間と費用がかかる。
・代償分割:不動産を取得した方がその他の相続人に現金を支払って、バランスを取る。
それぞれに利点・難点がありますので、不動産の種類や他の遺産の内容なども考慮しつつ分割方法を検討しましょう。トラブルになりそうなときは弁護士に相談して対応してもらうと良いです。
不動産相続後の手続と期限
遺産分割協議で不動産の取得が決まっても、相続手続がすべて終わるわけではありません。必要に応じて相続税の申告、そして相続登記の手続も進めていきます。
【相続税の申告】
取得した財産の価額に応じて相続税が課税されることがあります。そこで相続税の計算を行い、ご自身に「相続税納付の義務があるのか」、納税が必要な場合は「いくら納付しないといけないのか」を調べましょう。
実際のところ、大半の方は納税や申告の必要がありません。
これは遺産に係る基礎控除額が最低でも3,000万円以上と高額に設定されているためです。遺産等の総額が基礎控除額以下であれば課税価格が0円となり、納税や申告が不要になるのです。
一方で、相続税の申告が必要になる場合は「相続開始から10ヶ月以内」という期限に注意しなければなりません。
【相続登記】
取得した遺産すべてに名義変更の手続が求められるわけではありません。しかし不動産相続においては、通常、所有権移転登記の手続により名義変更を行うこととなります。このときの手続は「相続登記」とも呼ばれます。
2023年時点で相続登記は法的な義務とはされていませんが、登記は所有者であることを示すなど、権利を主張する上で重要な仕組みです。手続を忘れていると所有権をめぐる争いで不動産を取られてしまう危険が高まってしまいます。
また、2024年4月1日以降については相続登記が法的な義務となります。法改正により義務化されるのです。登記申請の期限は「不動産を取得したから3年以内」と比較的長い期間が猶予されますが、その間にトラブルが起こらないとも限りませんので、手続に対応する時間ができればすぐにでも申請を行いましょう。
登記については司法書士に依頼することもできますので、プロに任せて効率的に相続関連の手続を進めていくと良いでしょう。
日本には「成年後見制度」というものが法律上設けられており、認知症などにより判断能力が衰えた方でも法的な保護を受けることが可能です。ただし同制度が勝手に適用されるということはなく、利用開始にあたり手続を行う必要があります。
同制度には任意後見制度と法定後見制度の2種類があり、主に本人が主導して進めるのは前者です。そこでご自身の将来に不安がある方に向けて、ここでは任意後見を開始するまでの基本的な流れを紹介し、法定後見との違いについても言及していきます。
成年後見制度の利用前にしておきたいこと
成年後見制度を利用するにあたり、まずは成年後見制度に強い法律家に相談をしておくことが望ましいです。また、成年後見制度による保護を受け続けるには費用も発生し続けますので、その負担の大きさについても把握しておくべきでしょう。
【専門家への相談】
任意後見・法定後見のいずれを利用する場合でも、本人または申立をする方は制度の内容を理解しておくべきです。成年後見制度の利用が開始された後、本人にはどのような影響があるのか、後見人などとして本人をサポートする方は誰になるのか、どのようなことをしなければならないのか、まずはある程度制度全体のイメージが掴めておいた方が良いです。
そこで弁護士や司法書士など、成年後見制度についてのサポートを行っている専門家を頼りに相談を持ち掛けてみましょう。現状に合った最適な手段についてアドバイスをもらうことが期待できます。また、これからどのような手続が必要になるのか、ということについても教えてもらえます。
【費用の把握】
任意後見制度を利用する場合、まずは本人と任意後見人となる方が契約を交わす必要があります。どのような行為について後見をしてもらうのか、任意後見では当事者間である程度自由に定めることができます。こうした取り決めを「任意後見契約」として締結しておきます。ただ、任意後見契約書は公正証書として作成する必要があり、その準備段階で1~2万円ほどは費用がかかります。
そして任意後見が開始してから、任意後見人や任意後見監督人となった方に対して報酬が発生するケースがあります。相場としては、それぞれに対して月々数万円ほどの支払いが必要です。
任意後見開始までに必要な手続
任意後見を開始するまでの流れは次の通りです。
①任意後見人になってくれる人を探す
②任意後見契約を交わす
③家庭裁判所に申し立てる
この3ステップに分けて以下で詳細を説明していきます。
【任意後見人になってくれる人を探す】
任意後見では、被後見人となる本人が後見人の候補者を選ぶことができます。
※その候補者が絶対に任意後見人になれるとは限らない。
そこでまずは任意後見人の候補者を探すところから始めます。候補者を探すときは「欠格事由に該当しないこと」「本人と利害関係に立たないこと」「任意後見人として適性があること」に着目しましょう。
任意後見人候補者の探し方
・欠格事由に該当しないこと
法律上の欠格事由は次の通り(民法第847条)。
1:未成年者
2:家庭裁判所で免ぜられた法定代理人・保佐人・補助人
3:破産者
4:被後見人と訴訟をした者・その者の配偶者・直系血族
5:行方不明者
・本人と利害関係にないこと
任意後見人になることで本人に代わって契約締結も可能となる。そこで介護サービスを実施する企業が任意後見人になった場合、自社に都合良く契約を交わすこともできてしまう。この場面における介護サービス事業者は利害関係を持つといえる。
また相続の場面では親族間でも利害関係が対立することがある。
・任意後見人として適性があること
任意後見人になる方自身に経済力があり、お金に困っていないことも重要。また、任意後見人も高齢だと近い将来その方も判断能力が低下するおそれがあるため、年齢も着目ポイント。
その他、面倒見の良さや本人の生活状況が確認しやすい場所に住所を置いていることなども重要なポイント。
よくあるのは親族が任意後見人になるケースです。信頼できるという理由で候補として挙げられることが多く、本人としても安心して今後のことを任せられるというメリットがあります。
ただし「親族だから」という理由だけで選任するのはリスクが大きいです。成年後見制度に対する知識が不十分で、後見人として適切な行為ができない可能性があります。また、不正が起こる可能性についても考える必要があります。
そこで弁護士や司法書士、社会福祉士といった専門家を選任する例もよくあります。財産管理や契約行為のサポートに必要な知識が十分ですし、プロとして行うため将来の事業継続に悪影響が及びうる不正をはたらくリスクも小さいと考えられます。
【任意後見契約を交わす】
任意後見人の候補者が見つかれば、その方と任意後見契約を交わします。
契約内容について検討する場面でもプロの意見を取り入れることが重要です。法令に抵触しないこと、その上でご自身の状況に適した契約内容となるよう設計していく必要があります。
内容の検討ができれば、公証役場にて任意後見契約書を公正証書化。そして登記をしてもらうための手続も進めます。
なお、任意後見人候補者は契約締結時点だと「任意後見受任者」と呼ばれます。任意後見監督人が選任され、実際に任意後見が開始されてから「任意後見人」となります。
【家庭裁判所への申し立て】
任意後見契約の内容に従い任意後見を開始するには、家庭裁判所に「任意後見監督人の選任」について申し立てを行わなければなりません。
そこで申立書を作成し、任意後見契約公正証書の写しや戸籍謄本など各種添付資料も準備して、申し立てをします。
申し立てが認められれば任意後見監督人が選任されます。その後任意後見に関する登記が済めば、ようやく任意後見開始となります。それ以降、任意後見契約の内容に従って任意後見人が仕事を始めます。
法定後見制度の利用について
任意後見制度は本人が契約を交わす必要があります。つまり、その時点では契約を締結するだけの判断能力が備わっていなければなりません。
一方で、この事前対策が取れないまま判断能力に問題が生じることもあるでしょう。その場合は事後対策として法定後見制度の利用を検討します。
【任意後見と法定後見の違い】
法定後見制度の場合、本人の状態に応じて「成年後見」「保佐」「補助」の3つの選択肢が用意されています。本人に判断能力がまったく残っていないような状況では成年後見を選択することになり、後見人が広く代理権を持つことになります。
判断能力が大きく衰えており重要な契約行為などを自ら行うのが困難であるときは保佐、判断能力に不安があり部分的に制限をかけて保護しておきたいという場合は補助を開始することになるでしょう。
それぞれ後見を担う方の持つ権限が異なり、成年後見・保佐・補助の順に権限は小さくなっていきます。
【後見等開始までの流れ】
法定後見の場合、判断能力の程度を示すためにもまずは医師に診察をしてもらいます。診察結果に家庭裁判所の判断が拘束されるわけではありませんが重要な資料となります。
続いて申立書、申立事情説明書、財産目録や収支予定表、親族関係図、親族の意見書を作成し、戸籍謄本などの書類も準備します。これらと費用を備え、家庭裁判所に申し立てを行います。
申立内容に問題がない場合、後見等開始についての審判が下されます。
任意後見とは違い後見人等の権限がある程度法律で規定されています。そのため本人が契約で細かく権限についての設定を行うことはありません。また、事前に公正証書を作成するなどの手続も不要です。ただしできるだけ本人が望む通りの後見を実現するには、本人に判断能力が残っているうちに任意後見の検討をすることも重要です。
遺留分は、被相続人の配偶者や子ども、親などの法定相続人に認められる最低限の遺産です。遺言書を使って全財産が第三者に遺贈されていたとしても、遺留分の限度で受遺者に対して請求を行うことが法的に認められています。
そこで当記事では、「遺留分の割合を調べる方法」と、「遺留分の請求を行うときの計算方法」を解説していきます。
遺留分の割合を調べる方法
遺留分は、定額で指定されているものではなく、遺産に対する割合で指定されています。
被相続人との続柄、法定相続分に応じて遺留分の割合は異なるため、相続人同士でもその割合に差が出ることもあります。
次項以下で、各相続人の遺留分の割合を調べる方法を説明していきます。
【手順1:総体的遺留分を調べる】
遺留分を算定する財産の価額のうち、遺言書を使っても遺留分権利者全体に留保されるべき遺産は「総体的遺留分」と呼ばれます。総体的遺留分は、次の計算式から求められます。
総体的遺留分 = 基礎財産(遺留分算定の基となる財産)×総体的遺留分割合
そして「総体的遺留分割合」については、次の通り民法に規定が置かれています。
(遺留分の帰属及びその割合)
第千四十二条 兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第一項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。
一 直系尊属のみが相続人である場合 三分の一
二 前号に掲げる場合以外の場合 二分の一
つまり、下記のように整理することが可能です。
【遺留分権利者の状況】 【総体的遺留分割合】
直系卑属のみ 1/2
配偶者のみ 1/2
配偶者+直系卑属 1/2
配偶者+直系尊属 1/2
直系尊属のみ 1/3
※兄弟姉妹は遺留分権利者になれない。
直系卑属とは、被相続人の子どもや孫などのこと。直系尊属は被相続人の両親や祖父母などのことです。仮に配偶者と子どもが相続人になる場合、基礎財産の1/2が遺留分として留保されることが確定します。子どもの人数などは関係ありません。
【手順2:法定相続分から個別的遺留分を調べる】
遺留分権利者各自に留保される遺産の持分は「個別的遺留分」と呼ばれます。この個別的遺留分は、次の計算式から求められます。
個別的遺留分 = 総体的遺留分×法定相続分
法定相続分は、下記のように整理することができます。
法定相続分 法定相続分
第1順位 子ども:1/2 配偶者:1/2
第2順位 直系尊属:1/3 配偶者:2/3
第3順位 兄弟姉妹:1/4 配偶者:3/4
※配偶者は常に相続人になれる
※配偶者がいない場合は同順位の相続人で均等に分割
配偶者と子どもが相続人となる場合、前項で説明した通り、総体的遺留分割合は1/2です。そして配偶者の法定相続分はこのとき1/2ですので、個別の遺留分割合は1/4。よって、基礎財産の1/4が配偶者の個別的遺留分であると計算できます。
子どもも同様に遺留分を計算できますが、複数人いるときはその分法定相続分が小さくなります。例えば子ども2人が共同相続するとき、個別的遺留分はそれぞれ1/8となります。
遺留分侵害額請求額の計算方法
遺留分が問題となるのは、個別の遺留分すら取得できなかった場面です。その場合「遺留分侵害額請求」を受遺者等に対して行います。
例えば遺産総額が2,200万円である状況を考えてみましょう。
被相続人Xには相続人である長男Aと次男Bがおり、相続開始の5年前にAに対して300万円を贈与、20年前にBに対して600万円を贈与していました。Xには内縁の配偶者Yもいるところ、Yは相続人になれないため、XはYに対して遺産のすべてを遺贈しました。さらに遺言書には、債務200万円をAとBそれぞれに100万円ずつ承継させる旨の記載もなされていました。
以上の情報を整理すると次のようにまとめられます。
・遺産総額は2,200万円
・長男Aに対して5年前に300万円の贈与
・次男Bに対して20年前に600万円の贈与
・内縁の配偶者Yにすべての遺贈
・AとBにそれぞれ100万円の債務を承継させる
AとBの遺留分侵害額請求額はいくらになるのでしょうか。遺留分の侵害があったとして請求できる額は、基礎財産を計算した上で、個別的遺留分割合も算定しておかなければなりません。請求額の計算は、以下の手順に沿って進めていきましょう。
【手順1:基礎財産の算定】
まずは基礎財産を調べないといけません。このときの基礎財産には、相続時の積極財産と「特別受益(相続人が受けた相続開始前10年以内のもの)」、「贈与(相続人以外が受けた相続開始前1年以内のもの)」も含めます。
※当事者双方が害意をもって行った贈与については、期間の制限を受けず広く計算に含める。
その上で、相続債務などの消極財産を差し引きます。
そこで例に当てはめると、「Yが遺贈された遺産の総額2,200万円-相続債務200万円」の計算式により、基礎財産は2,000万円と算定できます。
なお、このとき遺留分権利者側が過去に受けた贈与(例にあるAの300万円、Bの600万円の贈与)は基礎財産に算入しないことに留意しましょう。そちらは遺留分“侵害額”を計算するときに考慮します。
【手順2:個別的遺留分額を算定する】
遺留分侵害額を把握するためには、もともといくらの遺留分があったのかを把握しておかないといけません。そこで個別的遺留分額を算定します。
まずは総体的遺留分割合からです。上の例に当てはめると、相続人は被相続人の子ども2人で直系卑属しかいませんので「1/2」であるとわかります。
次に個別的遺留分割合です。総体的遺留分割合1/2×法定相続分1/2を乗じて、「1/4」であると計算できます。
ここに基礎財産をさらに乗じて個別的遺留分額が算定されます。
個別的遺留分額 = 基礎財産2,000万円×個別的遺留分割合1/4
= 500万円
【手順3:遺留分侵害額請求額を算定】
相続人に特別受益がある場合、前項で計算された個別的遺留分額から差し引く必要があります。逆に、債務の承継があるときはその分を加算します。
遺留分侵害額 = 個別的遺留分額-遺留分権利者が受けた遺贈・特別受益の価額-遺留分権利者が取得する遺産+遺留分権利者が承継する債務額
例に当てはめるとこのように計算できます。
Aの遺留分侵害額 = Aの個別的遺留分額500万円-特別受益300万円-取得する遺産0万円+債務額100万円
= 300万円
Bの遺留分侵害額 = Bの個別的遺留分額500万円-特別受益600万円-取得する遺産0万円+債務額100万円
= 0万円
AはYに対して300万円の金銭を支払うよう求めることができます。一方Bは、債務100万円しか相続できていませんが、過去に600万円の贈与を受けていたことから、遺留分侵害額は0円となり請求をすることはできません。
遺留分侵害額請求の時効について
遺留分侵害額請求権は、次の民法の規定により、1年間の消滅時効にかかります。
(遺留分侵害額請求権の期間の制限)
第千四十八条 遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。
そこで①相続の開始、②遺留分を算定する基礎財産について贈与や遺贈があったこと、③遺留分が侵害されていること、の3つを知ってから1年間以内にその権利を行使する必要があります。
例えば、もっともな事情もなく単に遺言書が無効であると信じて権利を行使しなかった場合、①②③の認識があってから1年が経過していると権利が消滅します。
また、遺贈の事実は知っていたもののその金額まで把握できていないケース、遺産の総額が把握できていなかったケースなども、時効消滅への反論として認められない可能性が高いと考えられています。