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2023.06.07

相続開始により相続人となった方でも、亡くなった方の財産が手に入るとは限りません。負債を差し引いた後の資産が残っていないケースではもちろん、遺言書により「相続人以外の方に財産を渡す」といった指定をされているケースもあるからです。

しかしそのような場合でも「遺留分」という概念が法律上定められており、一定割合の財産に限り回収することが可能です。

遺留分とは具体的に何なのか、いくらの財産を回収できるのか。その方法や遺留分制度に関する注意点をここでまとめます。


遺留分とは最低限留保される相続財産のこと


遺留分は、一定の相続人に認められる、最低限留保される相続財産のことです。

本来相続財産は亡くなった方、つまり被相続人が好き勝手に処分できるはずのものです。そのため遺言書を使ってどのように処分をしようが、誰に譲渡しようが自由です。

しかし被相続人の財産を頼りに生活していた家族がいる可能性もあります。その場合まで限度なく自由な処分を許してしまうと、残された家族がその後の生活に困ってしまいます。

そこで遺留分として認められる相続財産の一定割合は、遺言書の内容に反してでも回収することができるものとして法定されています。


遺留分が認められる相続人


遺留分はすべての相続人に認められるわけではありません。

遺留分を確保できるのは、被相続人の「配偶者」「子ども」「親」などです。

子どもを代襲相続する場合「孫」にも遺留分は引き継がれます。

一方、被相続人の「兄弟姉妹」には遺留分は認められません。

そのため兄弟姉妹を代襲相続する「甥」や「姪」にも遺留分は認められません。


相続財産に対する遺留分の割合


各人の遺留分を計算するには、まず「総体的遺留分割合」を把握する必要があります。

総体的遺留分割合とは、相続財産に対する遺留分全体の割合を意味します。


そして総体的遺留分割合は、次のとおり民法で定められています。


 兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第一項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。

 一 直系尊属のみが相続人である場合 三分の一

 二 前号に掲げる場合以外の場合 二分の一


 引用:e-Gov法令検索 民法第1042条第1項


つまり、

①親だけが相続人となるときの総体的遺留分割合は相続財産の1/3で、

②それ以外の配偶者や子どもなどが相続人となるときの総体的遺留分割合は1/2、

ということになります。

①は、直系尊属“のみ”が相続人であるときの割合ですので、配偶者と親が相続人になるときは②の割合が適用されます。

続いて各人の遺留分割合についてですが、こちらは「個別的遺留分割合」とも呼ばれます。

計算は簡単で、上の総体的遺留分割合に各相続人の法定相続分を掛け算するだけです。


遺留分の具体的な計算例


配偶者と2人の子どもが相続人となる場合、総体的遺留分割合は1/2です。

そして配偶者の法定相続分は1/2ですので、以下の計算式に従いこのときの配偶者の個別的遺留分割合は導き出されます。

1/2(法定相続分)×1/2(総体的遺留分割合)=1/4(個別的遺留分割合)

子ども全体の法定相続分は1/2であり、これを子どもの人数で分け合うため、子ども1人あたりの法定相続分は1/4です。

つまり次の計算式に従い各人の割合が導き出されます。

1/4(法定相続分)×1/2(総体的遺留分割合)=1/8(個別的遺留分割合)

仮に遺産総額が1,000万円であるとすれば、配偶者にはその1/4である250万円が遺留分として認められます。

子どもについては1/8にあたる125万円が遺留分として認められます。


遺留分を確保するには「遺留分侵害額請求」が必要


遺留分が問題となるのは、遺留分に満たない財産しか取得できなかった場合です。また、自動的に遺留分が確保されるわけではなく、財産を譲り受けた人物に対して請求をしないといけません。

この請求のことを「遺留分侵害額請求」と呼びます。


【遺留分の侵害とは】

上の例で考えてみましょう。遺産総額は1,000万円で、相続人は配偶者と2人の子どもです。

この場合において被相続人が遺言書で「友人Aにすべての財産を与える」といった記載を残していた場合、その財産は友人Aにすべて渡ります。

しかし相続人らには遺留分があります。

配偶者は250万円、子どもは125万円の遺留分を持つところ、一切の遺留分を確保できていません。そこでこの状態を「遺留分の侵害を受けている」と表現します。

次に、遺言書で「友人Aに600万円分の財産を与える」と記載があったとしましょう。法定相続分に従って相続人が遺産分割をしたなら、配偶者は200万円、子どもは100万円を取得できます。

しかしそれぞれ遺留分の侵害を受けている状態です。

そこで配偶者は「250万円-200万円」の50万円につき、遺留分侵害額請求ができます。

子どもは「125万円-100万円」の25万円につき、遺留分侵害額請求ができます。


【遺留分侵害額請求の流れ】

遺留分侵害額請求をするのに特別な手続は必要ありません。

受遺者と話し合い、「遺留分侵害額請求をする」旨の意思表示をすればその権利を行使したことになります。

ただ、相手方が納得して支払いに応じてくれない可能性もあります。

そんなときは「調停」へと進みます。家庭裁判所で遺留分侵害額の請求調停を申し立てます。調停で和解をするにも双方の同意が必要ですが、調停委員が間に入って調整を行ってくれるため、多くの場合はここで解決できます。

調停でも解決できない場合は、最終手段として訴訟の提起を行います。

裁判官に判断をしてもらうのです。自身に遺留分があることを立証するなどして、相手方に支払い命令を下してもらえるように主張します。訴訟になると一般の方が対応するのは難しくなるため、通常は弁護士に依頼します。


遺留分に関して相続人が注意しておきたいこと


遺留分に関して、相続人となる方が注意しておきたいルールがいくつかあります。ご自身の権利を守るためにも押さえておきましょう。


【遺留分侵害額請求権は1年の時効で消滅することがある】

注意点の1つは、権利の消滅についてです。

遺留分侵害額請求権に限らず、法律上認められる権利でも一定期間行使しなければ消滅してしまいます。ただしその消滅するまでの期間には違いがあり、同請求権に関しては次の通り規定が置かれています。


 遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。

 引用:e-Gov法令検索 民法第1048条


要は、遺留分の侵害があることを認識してから“1年以内”には請求をしないと、その権利がなくなってしまうということです。

さらに、遺留分の侵害があることを認識しないまま期間が過ぎても、相続開始から“10年”が経過すると同様に権利がなくなってしまいます。

そのため遺留分の侵害を知ったのが相続開始後9年半の時点であった場合、請求権を行使できるのは残り半年間ということになります。


【遺留分の放棄は撤回ができない】

遺留分は放棄することができます。

相続開始前に「遺留分を放棄します」との申出を家庭裁判所に行い、許可が下りたときには、その効力が生じて遺留分の請求を後で行うことはできなくなります。

推定相続人にとって遺留分の放棄は行う意味がないようにも思えますが、利点もあります。

1つは生前の放棄による「代償の受け取り」です。

生前の放棄が許可されるには、被相続人となる人物から代償として支払いがなされていることが求められます。法定されているルールではなく、絶対的な条件ではない点に留意しないといけませんが、このような運用がされているケースが多いです。

生前の代償をしてもらえることで、本来相続開始後に受け取るはずの財産を先取りすることができるのです。

もう1つは「受遺者等とのトラブルの防止」です。

遺留分をめぐって相続開始後に揉める可能性がありますが、代償を受け取り、遺留分の放棄をしておけば、このトラブルは回避することができます。


こうした利点もあり、実際、毎年数百件もの遺留分放棄がなされています。


・781件(令和3年)

・778件(令和2年)

・911件(令和元年)

出典:司法統計「令和3年 司法統計年報(家事編)」 


ただし、後から「やっぱり遺留分の放棄はなかったことにしたい」と考えても取り返しはつきません。原則として遺留分の放棄の撤回はできません。

例外的に認められるケースもありますが、撤回できることを期待して行うべきではなく、今後のことをよく考えて決断することが大事です。


【他の相続人の遺留分放棄は影響しない】

自分以外の相続人が遺留分の放棄をしたとしましょう。この場合でも自身の遺留分が増えるわけではありません。

「相続放棄」をしたのであれば、相続人としての立場そのものを捨てたことになり、その他の相続人の法定相続分も増えることになります。

しかし遺留分の放棄は対外的な影響力を持ちません。

そのため計算を間違えて個別的遺留分を算出し、受遺者等に請求をしないように気を付けないといけません。

 

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